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甲府地方裁判所 昭和33年(ワ)115号 判決

原告 甲府武蔵野映画劇場株式会社

被告 株式会社甲南劇場

主文

一、原告会社が被告会社の八二〇株(額面合計四一〇万円)の株主であることを確認する。

二、被告会社の昭和三三年三月二七日付定時株主総会における昭和三二年度下半期決算事項の承認に関する決議はこれを取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、請求の原因その他の主張として、要旨つぎの通り述べた。

第一、原告が被告会社の株主であることについて

一、原告は昭和三〇年三月二二日、訴外望月岩吉に対し金一〇〇万円を、弁済期同年六月一〇日、利息年一割五分、遅延損害金は日歩九銭八厘と定めて貸与しその弁済を担保するため債務者望月岩吉所有の同人名義の被告会社株式四〇〇株(ただしろ第一五一号ないし第一九〇号の各一〇株券、額面合計二〇〇万円)の譲渡を受け、その名義書替に必要な譲渡証書、委任状、印鑑証明書、名義書換請求書等とともに右株券を受領した。

二、原告はさらに昭和三〇年四月五日、訴外望月岩吉に対し金一〇〇万円を、弁済期同年五月三一日、利息年一割五分、遅延損害金は日歩九銭八厘と定めて貸与しその弁済を担保するため、債務者望月岩吉所有の同人名義の被告会社株式三七〇株(ただしろ第一三〇号ないし第一五〇号、路第一三号ないし第二五号、路第一〇〇号、ろ第一二六号、第一二七号の各一〇株券)および訴外望月きみ所有の同人名義の被告会社株式五〇株(ただし路第九一号ないし第九五号の各一〇株券)(以上合計四二〇株額面合計二一〇万円)の譲渡を受けその名義書換に必要な譲渡証書、委任状、印鑑証明書、名義書換請求書等とともに右株券を受領した。

三、前記一および二の各譲渡担保契約において、訴外望月岩吉は右各弁済期に債務の履行をしないときは原告において各株式に対する所有権をそのまま維持するも、また任意に処分して売得金を以て債務に充当するも原告の自由で、債務者は何ら異議ない旨を約したのであるが、望月岩吉は右二口の貸付金について各弁済期が到来するも元利金とも返済をしなかつたので、原告は、昭和三二年五月一〇日、前記各株式の譲受人として前記各書類によつて被告会社に対し名義書換の請求をした結果、被告会社代表取締役小田切彰によつて株主名簿上の名義書換手続を完了したものである。

四、しかるに被告会社は原告が前記合計八二〇株の株主であることを否認し後記のように株主総会の招集の通知もしなかつたので、原告は被告会社に対し本訴を以て株主であることの確認を求めるものである。

第二、株主総会決議の取消について

被告会社は昭和三三年三月二七日定時株主総会を招集して昭和三二年度下半期の会計に関する決算事項の承認の決議をしたのであるが、被告は株主である原告に対し右定時株主総会の招集通知をしなかつたので、原告は総会開催の事実も知らず、出席もしなかつた。したがつて右の決議は定款および商法所定の招集手続に違反してなされたものとして取消されるべきである。

第三、被告の主張に対する反論

被告は、被告会社の株券台帳に原告の株主名義の記載がないことを以て原告は被告に対し株主であることを対抗することができないと主張する。けれども、いわゆる株主名簿は、誰が株主であるかを会社側に明らかにするための帳簿として当然会社に備え付けるべきものであつて、株主を基礎として株主および株券に関する事項を明らかに記載することが商法上要求されている。しかし株券台帳は株券を基礎として株券および株主に関することを記載する帳簿ではあるが、法律上要求されたものではなく、株主名簿とはその目的も性質も異なるものである。現に被告が本訴において乙第一号証の一ないし八二として呈示するものも表示内容ともに株券台帳であつて、明らかに法律上要求される株主名簿ではない。したがつて、この株券台帳に原告名義の記載がなくても、株主名簿に記載がないことにはならない。

仮りに、被告会社の法律上要求された株主名簿に原告の株主名義の記載がないとしても、原告は前記第一の三に述べた通り被告会社に株式の名義書換を要求した結果、被告は株券の裏面に被告会社代表者の認印を押捺して株式譲渡を明らかに承認したのであるから、被告としてはこれに伴い当然株主名簿に記入すべきであるのに故意または重大な過失によつてこれを怠つているわけであるから、このような場合には株主名簿上の記載がなくても株主たることを以て会社に対抗できることは明らかである。」

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁ならびに抗弁として要旨つぎの通り述べた。

第一、本訴請求中株主権の確認を求める部分についての本案前の抗弁

この請求部分は訴の追加的変更にあたるものであるが、株主総会決議の取消を求める部分と請求の基礎を異にするから右の訴の変更は許されない。仮りに請求の基礎に変更がないとしても、原告の故意または重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防禦の方法であつて訴訟の完結を著しく遅延せしめるものであるから、いずれにしても却下されるべきである。

第二、原告の請求原因第一に対する答弁ならびに仮定的主張

原告が訴外望月岩吉および望月きみから譲受けたと主張する株券に被告会社代表者の捺印があることは認めるがその余の原告主張事実は全部否認する。仮に右の株式が原告の手中にあるとするも、訴外望月岩吉が河野義一個人に対して、借入金の担保株式として差入れたものを、原告がほしいままに原告会社名義で譲受けたものと称しているにすぎない。仮りに原告会社が譲受けたものであるとしても、被告会社の株式名簿上の名義書換がなされていないから、原告はその株式取得を以て被告会社に対抗することができない。なお被告会社ではいわゆる株主名簿に代るものとして株券台帳を設けて株式および株主に関する商法第二二三条所定の事項一切を記載しているから、株券台帳が商法上の株主名簿に相当する。したがつて、原告が被告会社の株主であることの確認を求める本訴請求は失当である。

第三、原告の請求原因第二に対する答弁ならびに仮定的主張

被告会社が昭和三三年三月二七日定時株主総会を招集して原告主張の決議をしたこと、右の招集について原告に対する通知をしなかつたことはいずれも認めるが、原告が被告会社の株主でないこと、仮りに株主であつても被告会社に対抗し得ないことは前記第二に述べた通りであるから、原告に対して株主総会招集の通知を発しなかつたことは当然で、本件決議にとつて何らの瑕疵とならない。また仮りに原告が会社に対して株主であることを対抗し得るとしても、本件株主総会開催当日の株主数は六三名、株式総数二五〇〇株であり、そのうち総会に出席した株主四五名、その株式数は二二八一株であり、原告の株式数八二〇株を差引いても過半数の賛成を以て議決されたものであり原告の欠席は何ら決議の結果に影響を及ぼさなかつたことが明らかである。また原告は右の如き本件決議の取消を訴求するについて何らの利益もないので、右は株主権の乱用というの他なく、本訴請求は裁判所の裁量により棄却されるべきである。

証拠として、原告訴訟代理人は甲第一号証の一ないし一六四、第二、三号証、第四号証の一、二、三を提出し、証人小田切彰、田中楠男ならびに被告会社代表者藤井良雄、原告会社代表者河野義一の各尋問を求め、乙号証の成立は不知であると述べた。

被告訴訟代理人は乙第一号証の一ないし八二を提出し証人原経男、望月岩吉、八巻信次郎ならびに被告会社代表者藤井良雄の各尋問を求め、甲第四号証の一、二、三はいずれも望月岩吉名下の印影が同人のものであることは認めるが成立は否認する、その余の甲号証の成立は全部認めると述べた。

理由

第一、被告の本案前抗弁について

原告が被告会社の株主であることの確認を求める本訴部分は、被告会社の株主総会の決議取消を求める訴訟の審判に対して先決問題の関係に立つているので、右はいわゆる中間確認の訴とみるべきである。そして、職権で調査するに、本訴は中間確認の訴としての要件に欠けるところはないので、実質的には訴の追加的変更にあたるけれども、本来の訴との関係において請求の基礎の異同を論ずるまでもなく、適法とみるべきである。また中間確認の訴は、民事訴訟法第一三九条にいわゆる攻撃防禦方法にはあたらないから同条によつて本訴請求部分の却下を求める被告の申立もまた理由がない。

第二、株主権確認請求について

甲第一号証の一ないし一六四は成立に争がなく甲第四号証の一ないし三は証人八巻信次郎、原告代表者河野義一の各証言供述によつて真正に成立したと認められる。以上の各書証ならびに証人田中楠男、小田切彰、八巻信次郎の各書証、原被告各代表者の供述と弁論の全趣旨を総合すれば、訴外望月岩吉は昭和三〇年三、四月頃山梨県議会議員選挙に際して立候補し、その運動資金等に充てるため原告会社代表者である河野義一を介して原告会社から二回に亘り合計二〇〇余万円を借入れ、その弁済の担保として、自己ならびに妻望月きみ所有の被告会社株式合計八二〇株(株券番号等は事実摘示原告請求原因第一の一、二に記載の通り)を適法に原告会社に譲渡した事実ならびに河野義一は、望月岩吉が右貸付金の返済をしなかつたため昭和三二年五月一〇日頃被告会社に対し右株式の原告会社への名義書換を請求し、これに対して被告会社代表取締役小田切彰が各株券の裏面に取締役会長印を押捺し、原告会社が株式譲受人となつたことを承認した事実をそれぞれ認めることができる。

証人望月岩吉の証言中、同人は株式を河野義一に担保に差入れたもので譲渡する意思はなかつたとの趣旨の部分ならびに、証人原経男の証言中、本件の株式名義書換請求がなかつたとの趣旨の部分はいずれも信用することがでできず、他に前段の認定を左右するに足りる証拠はない。

被告会社が原告の請求に応じて本件株式の名義書換手続をしたことは、本件に現われた全証拠によるもこれを認めることができず、むしろ証人小田切彰の証言と被告会社代表者の供述ならびに弁論の全趣旨によれば、株主名簿上の名義書換は何らなされていない事実が明らかである。そして商法第二〇六条によれば記名株式の移転は取得者の氏名および住所を株主名簿に記載しなければこれを以て会社に対抗することができない旨規定しているけれども、本件の場合のように、株式譲受人が会社に対して株式名義書換を請求し会社が株式の移転を承認したときは、特段の事情の認められない限り、譲受人はその株式移転を以て会社に対抗することができると解するのが相当である。したがつて、原告のこれと同趣旨の仮定的主張(事実摘示原告主張中第三後段)正当であり、原告は被告会社に対する関係において前記八二〇株の株主であることが明らかである。

第三、株主総会決議取消請求について

被告会社が昭和三三年三月二七日定時株主総会を招集し、昭和三二年度下半期の会計に関する決算事項の承認の決議をした事実は当事者間に争がなく、原告はその当時被告会社に対抗し得べき八二〇株の株主であつたことはさきに認定した通りであるところ、被告会社は右株主総会の招集にあたり、原告に対し商法所定の招集通知を発しなかつた事実もまた当事者間に争がない。したがつて右株主総会は招集手続に瑕疵がありその決議は取消されるべきものといわなければならない。

被告は、原告に対する招集手続を欠いても決議の結果には何らの影響がなかつたから、原告が本訴において決議取消を求める利益はなく、本件の訴訟は裁判所が裁量により棄却さるべきであると主張する。けれども、もし原告が適法な招集通知を受けて本件株主総会に出席し、株主総会の構成員として質疑あるいは討論に参加発言したならば、他の株主の意見の形成にどのような影響を与えたかもしれず、場合によつては議案が否決されたであろうことも考えられるところである。したがつて、単に形式的に原告の株式数を控除してもなお過半数の賛成投票があつたというように、議決権の数の計算のみに基いて、招集手続の瑕疵が決議に何らの影響を及ぼさなかつたと断定することはできない。本件において他に決議取消を許さないことを相当とする特段の事情も何ら認められないので、被告の右の主張は理由がない。

第四、結論

以上判示の通り、原告の本訴請求はすべて正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 岡村治信)

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